| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-037J (Poster presentation)

ガス交換における気孔の意義ー表皮を取り除くことによるガス交換速度の変化ー

*澤上航一郎,舘野正樹 (東大・院・理・日光植物園)

植物の葉は気孔を介して二酸化炭素の吸収を行い、代償として水蒸気を放出する。このガス交換において、気孔を介した拡散がどの程度の抵抗になっているかをリアルタイムで実測する方法は今の所存在しない。気孔が閉じると気孔の抵抗が非常に大きくなることはよくわかる。しかし、気孔が開いている時に、気孔抵抗が二酸化炭素の吸収をどの程度妨げているのか、そして水蒸気の放出をどの程度抑えているのかはよく分かっていない。本研究では、ツユクサの葉を用い、表皮を取り除いた状態の葉でガス交換を測定し、無傷葉の値と比較することで、気孔開口時の気孔抵抗がガス交換速度に与える影響を調べた。片側の表皮を取り除くと、光合成速度は無傷葉に対して上側・下側の剥皮でそれぞれ109%、99%となり殆ど変化しなかった。蒸散速度はそれぞれ262%、199%となり、大きく上昇した。このことから、気孔は二酸化炭素吸収を妨げることなく水蒸気の放出を抑えていることがわかる。この結果は、これまで知られてきた葉内二酸化炭素濃度計算の常識とは異なる。そこで、気孔を介した二酸化炭素吸収モデルを考え、妥当性を検討した。モデルには気孔を介した拡散方程式と、葉内から葉肉細胞への吸収を考えたミカエリス・メンテン式を用いた。モデル計算の結果、光合成速度は気孔を介した拡散ではなく、ルビスコの酵素反応が律速していることが示された。同様に、拡散方程式と水面からの蒸発を考えた式から蒸散モデルを作り、計算すると、気孔開口に伴い葉内の湿度が外気と飽和蒸気圧の中間程度まで低下することが示された。結論として、気孔を介してガス交換を行う事で、植物の葉は光合成速度を低下させずに水の損失を大きく抑えることができる。


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