| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-039J (Poster presentation)
樹木の樹冠形はその種の遷移的な位置づけや生活史を反映している。また,樹冠形は個体の置かれた環境に応じて可塑的に変化する。サワラは実生による更新以外にも,伏条枝による栄養繁殖が可能な高木性の常緑針葉樹である。演者らはこれまでの研究でサワラの更新様式は光環境によって異なり,暗い閉鎖林冠下では実生による更新は少なく主に伏条枝によって更新し,逆に明るい開放林冠下では伏条枝による更新は少なく主に実生によって更新すること,さらに閉鎖林冠下に生育するサワラ後継樹は下枝の枯れ上がりが少なく,生枝下高を低く維持することで伏条更新に適した樹冠形をとることを示した。本研究ではこのような伏条更新に適した樹冠形が,実生更新の盛んな開放林冠下に生育するサワラ後継樹においても認められるかどうか調べた。調査は,筑波大学川上演習林のカラマツ林内に孤立的に成立する天然のサワラ個体群(開放林冠)と信州大学構内演習林のヒノキ・サワラ人工林(閉鎖林冠)で行った。樹高1m~4mのサワラ後継樹135個体(開放林冠:63個体,閉鎖林冠:62個体)を対象として,樹高と生枝下高,樹冠直径,枝角度等を測定した。生枝下高と樹冠直径は,樹高が大きくなるにしたがって増加した。生枝下高と樹冠直径を樹高と直線回帰したところ,直線式の傾きには開放林冠と閉鎖林冠で有意差は認められなかった。枝角度にもまた,開放林冠と閉鎖林冠で有意差は認められなかった。以上の結果は,サワラの後継樹は開放林冠下においても閉鎖林冠下と同様に下枝を枯れ上がりが少なく水平方向に大きく広がる樹冠形を形成することを意味する。サワラ後継樹は実生更新の旺盛な明るい開放林冠下においても,暗い閉鎖林冠下と同様に伏条更新に適した樹冠形を形成することが明らかとなった。