| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-047J (Poster presentation)

根の形態が異なる2種のルピナスの成長特性、呼吸速度、構成コストの比較

*野口(舟山)幸子,寺島一郎(東大・理)

リンは植物の成長に必須な重要な元素である。地中海地方原産のマメ科植物シロバナルピナス(以下、シロバナ)とホソバルピナス(以下、ホソバ)は、どちらもリンが非常に少ない土壌で生育できる。シロバナは、リンが乏しい土壌に適応した植物種に特徴的な短い側根がボトルブラシ状に密集するクラスター根を作る。クラスター根の機能は,有機酸(例えばクエン酸)などを根圏に大量に分泌し,土壌粒子と結合している難溶性リン酸を可溶化して植物に利用可能にすることである。一方、ホソバは、クラスター根を作らない。本研究では、シロバナとホソバの成長速度、根の呼吸速度、根の構成コストを測定し、2種のルピナスの低リン酸環境に対する応答の違いを明らかにすることを目的とした。材料には、2段階のリン酸条件下で21日間水耕栽培したシロバナとホソバを用いた。

低リン酸条件(以下、低P)において、シロバナでは根の乾燥重量の約19%がクラスター根であった。低Pのホソバは、長い側根をもつ太い根を作り、個体重量に対する根重量の割合を増加させた。クラスター根を含むシロバナの根系では、ホソバの根に比べ、重量あたりの呼吸速度と構成コストが高かった。さらに、シロバナの根系の中ではクラスター根の部分が特に構成コストが高かった。しかし、個体の相対成長速度は、ホソバの方がシロバナより大きかった。本研究から、低リン酸環境において、シロバナはコストの高いクラスター根を作ることにより効率よくリン酸を獲得するのに対し、ホソバは低コストの根を大量に作ることによりリン酸の吸収量を増やすことが明らかになった。低Pでシロバナの相対成長速度が低かったのは、本研究では難溶性のリン酸ではなく可溶性のリン酸のみを水耕栽培で植物に与えたために、有機酸を根圏に分泌してもリン酸の吸収できる効率が変わらなかったためと考えられる。


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