| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-051J (Poster presentation)
乾燥地では昼夜の大きな気温差により夜間の露の発生がしばしば観察される。利用可能な水分量の少ない乾燥地の植物はその結露水を利用している可能性がある。そこで本研究では、中国内蒙古毛鳥素沙地に生育する常緑針葉樹の臭柏(Sabina vulgaris Ant.)を対象とし、夜間の結露水の利用の有無および利用している場合はその吸収経路を解明することを目的とする。臭柏は匍匐性の植物であり、主根とは別に匍匐枝から土壌表層に不定根を出している。臭柏が夜露を利用する経路として考えられるのは土壌表層に浸透した結露水を不定根を通して吸収している可能性と葉面上の結露水を気孔またはクチクラなど別の経路を通して吸収している可能性である。葉の水ポテンシャルと樹液流速の測定結果より、根から茎への水の輸送が停止した後の夜間においても葉の水ポテンシャルが上昇していたことから、結露水が根からではなく葉から吸収されていた可能性が示唆された。この結果をさらに検証するため、茎内水、葉内水、結露水などの酸素安定同位体比を測定した。水の酸素安定同位体比は根から吸収された後、茎内では変化しないが、葉内では蒸散の影響で変化する。このことを利用して、葉内水の酸素安定同位体比の変化を表現したCraig-Gordonモデル、Pecletモデル、Non-steady stateモデルを用いて蒸散の影響を除去した葉内水と結露水、茎内水の酸素安定同位体比と比較することで結露水の利用の有無とその吸収経路を考察した。その結果、茎内水の同位体比は結露が発生する時間帯に変化していなかったことから、茎には結露水が入ってきていない、すなわち土壌表層の結露水の根からの吸収はないと考えられた。また、葉内水の同位体比は茎内水のそれと一致せず、茎内水と結露水の間の値を取った。以上のことから夜間、臭柏は葉から結露水を吸収している可能性が示唆された。