| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-060J (Poster presentation)
熱帯降雨林では一般的に被子植物が優占するが、ボルネオ島キナバル山の下部山地熱帯降雨林や低地ヒース林ではマキ科針葉樹が優占する。これらの森林ではNが欠乏しているとされており、針葉樹の優占するメカニズムにNの利用効率かNの獲得効率が関わっていると考えられる。本研究では、光合成におけるN利用効率と、マキ科針葉樹下の腐植に多く含まれ、N無機化の阻害要因となっているポリフェノール—タンパク質複合体(PPC)の樹木根による加水分解能、の2点を明らかにした。
マキ科針葉樹Dacrycarpus imbricatusと広葉樹優占種2種の稚樹について、野外条件下で光合成速度を測定した。D. imbricatusの暗呼吸速度は3樹種の中で最大で、これまで報告されてきた通り耐陰性が低かった。PARが25μmol/㎡/s以上の場合、針葉樹と他樹種に光合成速度の有意な差は見られなかった。N含有量当たりの光合成速度は、PAR25μmol/㎡/s以上ではD. imbricatusが最も高い値を示した。PPCの分解能については、D. imbricatusの葉から抽出した縮合タンニンにBSAを反応させて作成したPPCを緩衝液に溶かし、それにD. imbricatusなど6樹種の根を浸け、PPCから遊離するアミノ酸の速度を定量して決定した。根乾重量当たりで比較すると、D. imbricatusが他樹種よりも速い加水分解速度を持つわけではなかった。
これらの結果から、D. imbricatusの稚樹は、難分解性のNを積極的に獲得するよりも、むしろNが欠乏しても、弱光条件下で相対的に高い光合成速度を維持する、ことが示唆された。このことが優占度が高くなる1要因であると思われる。