| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-061J (Poster presentation)

単一道管での測定からエンボリズムを起こした道管への陰圧下で水が再充填される機構を解明する

大條弘貴,種子田春彦,寺島一郎(東大・院・理)

水ストレス下にある植物の茎では高い陰圧が道管液にかかる。このとき、木部にある気体が、道管表面にある壁孔を通して内部へ引き込まれ道管内腔を塞ぐことで水の輸送を妨げる。これを空洞現象と呼ぶ。空洞化した道管の水輸送能力回復には、道管内に入り込んだ気泡に陽圧をかけて周囲の水に溶かし込む必要がある。近年、根圧がない状態でも、空洞化した道管に水が再充填されることが確認されている。隣接して存在する道管液には陰圧がかかっていても、空洞化した道管内に再充填される液が引き込まれないようにしつつ、空洞化した道管内の気泡に陽圧をかけるメカニズムとして、これまでに2つの仮説が提案されている。ひとつは、再充填中の道管の壁孔内に気泡が入り込んだ構造がつくられることである。このことで、道管内の水と陰圧がかかっている周囲の水とのつながりが断ち切られる (pit valve説)。もう一方は、壁孔膜を通れないような大きさの高分子量の糖を道管周囲の柔細胞が能動的に道管内腔へ輸送することである。これにより、道管に充填される液が高い浸透濃度を保ち、再充填中の道管から陰圧のかかった周囲へ水が引き込まれないようにする(半透膜説)。しかし、前者は再充填完了前に壁孔内の気体が溶けて周囲の水とつながる危険性があり、後者は高分子量の糖を必要とするためきわめて大きなコストがかかるという問題点がある。

これまでに私たちは、ショ糖溶液を単一の道管に流したときに、ショ糖濃度が高くなることを見出した。これは盛んな能動輸送が起こりうることを示唆する。現在、壁孔膜の半透性を評価するために、分子量の異なるPEG溶液を単一の道管に流し、壁孔膜の反発係数を測定している。さらに、壁孔内に入り込んだ気泡がどの程度の圧力まで維持されるのかを明らかにすることで、2つの仮説を検証する。


日本生態学会