| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-062J (Poster presentation)
樹木の葉芽を構成する炭素は樹体内に貯蔵されていた炭素あるいは常緑樹の場合は旧年葉がその時に固定した炭素から構成されていると考えられる.展葉とともに,その葉で光合成が行われるようになり,その葉が固定した炭素の割合が増えると考えられる.
本研究では,葉の炭素安定同位体自然存在比をトレーサーとして用いることで,温帯落葉/常緑広葉樹の展葉期における葉内の炭素動態の解明を目指す.
三重大学内に生育する落葉広葉樹のサクラ(Prunus X yedonesis Matsum.)3個体と,常緑広葉樹のクスノキ(Cinnamomum camphora Linn.)2個体を対象として,2010年3月から5月までは4日に一回,その後10月までは1ヶ月に二回葉を採取し,全有機物の炭素安定同位体比を測定した.また,採取した葉の葉面積および乾燥重量を測定し,単位葉面積あたりの乾燥重量(LMA)を算出し,それらの増加のパターンに基づいて4段階に分けた.落葉樹であるサクラでは,展葉直後の段階1では炭素安定同位体比は最も高い値であった.葉面積,LMAがともに増加を続けている段階2では炭素安定同位体比は急激な低下を見せた.貯蔵炭素の炭素安定同位体比は高く,水利用効率の低い展開直後の光合成産物の炭素安定同位体比は低いことから,転流による貯蔵炭素によって形成された葉が徐々にその葉が固定した炭素によって拡大していることが示唆された.また葉面積の増加が止まる段階3からLMAも止まる段階4にかけて炭素安定同位体比の変動は小さく収まっていった.常緑樹であるクスノキにおいても同様に4段階に分けられたが,炭素安定同位体比が段階1から段階2にかけても大きく変動したことが落葉樹であるサクラとは異なっていた.