| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-085J (Poster presentation)
樹木集団の健全性評価と将来予測のためには,遺伝的多様性が生活史の各段階の個体にどのように保持・伝達されているかを理解することが重要である。中間温帯の森林の主要構成樹種のひとつであるモミは,近年天然林の分断・孤立化が著しく,残存集団の保全が急務とされている。本研究では,福島県いわき市における長期モニタリングの一環として,胚と雌性配偶体を併用した高精度の親子解析手法により,モミの花粉及び種子を介した遺伝的動態を分析した。
固定試験地(約1ha)の中央に設定した種子調査区(30×50m)にシードトラップ15基を設置し,2010年に自然散布された種子を採取した。トラップあたり32種子を対象として,胚と雌性配偶体の組織別にSSR12遺伝子座の遺伝子型を決定し,対立遺伝子が種子親と花粉親のどちらに由来するかを判定した。種子調査区内のDBH5cm以上の立木およびその他の区域のDBH15cm以上の立木,合計327個体についても,同様に遺伝子型を決定した。
種子の落下量は平均653粒/m2であり,過去4年間と比較すると豊作に相当した。全遺伝子座の遺伝子型を決定できた418粒を対象として親子推定を行ったところ,雄性配偶子の約55%,雌性配偶子の約18%が試験地外に由来すると推測された。立木,胚,雌性配偶子,雄性配偶子のアレリックリッチネスの平均値は13.06,12.67,9.50および13.75,立木と胚の遺伝多様度の平均値は0.764と0.784であり,雄性配偶子が種子の遺伝的多様性の維持に大きく寄与していることが示唆された。