| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-086J (Poster presentation)

なぜ、二つの型の自家不和合性が進化したのか:配偶体型と胞子体型の初期進化に関する理論的解析

*若生悠華(東北大・理・生), 酒井聡樹(東北大・生命)

自家不和合性(SI)とは、自分や近親個体の花粉と他個体の花粉を識別し、自殖を阻害する生理的システムである。SIはSアリル上の複対立遺伝子(S1, S2, …, Sn)によって制御されており、同じSアリルを持つ者どうしは交配できない。SIの交配システムには、配偶体型SI(GSI)と胞子体型SI(SSI)の2つがあり、前者は花粉の遺伝子型で、後者は花粉親の遺伝子型で識別される。すなわち、胚珠の遺伝子型がS1S2、花粉親はS2S3である場合、GSIではS2花粉のみ交配阻害されるが、SSIではS2花粉もS3花粉も交配阻害される。SIの進化をもたらしたのは、自殖による繁殖保証を失っても他殖により近交弱勢を回避すべき状況とされている。では、なぜ2つのシステムが進化したのであろうか。本研究では、SIの初期進化条件を理論的に解析し、GSIとSSIそれぞれが進化しやすい条件を探った。初期状態として、花粉認識機能を持たないNアリルをホモで持つ集団(いずれもNN個体)に、Sアリルをヘテロで持つ変異体(SN個体)が侵入すると仮定し、Sアリルが増える条件を調べた。その結果、GSIよりSSIの方が侵入可能な条件が広かった。この主な理由は、GSIのSN個体が自殖可能であることだと考えられる。SN個体は自らが生産するN花粉により自家受精し、近交弱勢を受ける。一方、S花粉は自個体のみならず他のSN個体とも交配できない。近交弱勢が高いほどSIは侵入しやすいが、侵入初期から自殖をしないSSIに比べ、GSIは侵入初期に近交弱勢を完全回避できないため不利であることがわかった。


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