| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-092J (Poster presentation)
雌雄異株植物では、種子の形成時には雌雄比が1対1になることが理論的に示されているが、現実の野外集団では、性比がどちらかに偏っている事例が報告されている。
前報では落葉低木であるコクサギ(Oryxa japonica)が、石灰岩礫斜面で性比が著しく雄に偏っていること、その理由が、雌雄の繁殖形態の差、特に雄の方が旺盛に伏条更新することにあることを示した。本報では、コクサギの主要な生育地のひとつである、非石灰岩地の山間小河川沿いの生育パッチでコクサギの性比が偏るかどうか、また、伏条に関する性差がみられるかどうかを検討した。
非石灰岩地の9パッチに生育していた129個体のうち、雌は55個体、雄は74個体であり、性比(総個体数に占める雄の割合)は0.57であった。一方石灰岩地では128個体中、雌は25個体、雄は103個体であり、性比は0.80であった。非石灰岩地の小河川沿いでは、パッチは10m四方以内の範囲に分断されており、個体数も数個体から24個体程度と小規模であった。一方、石灰岩礫斜面では、生育地のパッチは大規模で、数haに及んでおり、性比も0.86と大きく雄に偏っていた。非石灰岩地の小規模なパッチでは、性比は0.14〜1.0の範囲であり、雌に偏ったパッチも9パッチ中4みられた。小河川ごとにパッチをまとめて性比を算出すると、単一パッチであった場所を除けば、性比は0.67〜0.7の範囲であった。伏条の程度を示す個体あたりのラメット数については、雄の方が大きかったが、石灰岩地と非石灰岩地で差はみられなかった。
以上のことから、非石灰岩地では、頻繁な攪乱によって成立した小規模なサイトに少数の種子等が侵入し定着するため、パッチごとに性比が大きくばらつくが、石灰岩礫斜面では、頻繁な攪乱が入らず、競合する他種低木も少ないため、長期間にわたる雄の旺盛な伏条の結果、性比が雄にかたよるものと考えられる。