| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-094J (Poster presentation)
顕花植物の花寿命には著しい多様性があり、この多様性は適応進化の結果だと考えられている。本研究では、花寿命の遺伝的背景が調べられている Hemerocallis属においてポリネータが不足し受粉が起きにくい種では、他種よりも長い花寿命が進化していることを示す。
キスゲ H. citrinaは朝開花しその日の夕方に閉じ、ハマカンゾウ H. fulvaは夕方開花し翌朝閉じる。両者のF2雑種には親と同じ半日咲きの他に、夕方開花し翌日の夕方閉じる一日咲きが現れる。一日咲きだと言われている野生種にエゾキスゲ H. yezoensisがある。演者らはエゾキスゲの開花・閉花時刻がF2雑種と一致するか、花寿命は受粉と気温によって変化するかを調べた。さらに、長い花寿命の適応的意義を明らかにするため、種子生産がポリネータによって制限されているかを調べた。
2008年の調査ではF2雑種と同じ一日咲きのパターンが確認された。より気温の低かった2009年の調査では開花は2008年とほぼ同じ時刻であったが、閉花時刻が遅くなった。花寿命は気温が低いと長くなったが、受粉には影響されなかった。開花1日目の昼または夜、開花2日目の昼または夜のいずれかの期間だけポリネータにさらしたとき、開花2日目の昼と夜により多くの花粉が柱頭につく傾向にあった。ポリネータの訪花は少なく、柱頭に付着した花粉数は、平均胚珠数にも達しない個体がほとんどであった。
以上から、エゾキスゲの花寿命は気温が低いほど延びる可塑性をもつが、基本的にはF2雑種の一日咲きと一致すると示唆された。また、種子数を最大化する花粉を得るのは困難であり、同属の他種よりも長い花寿命は、ポリネータの少ない環境でできるだけ多くの花粉を獲得するための適応だと考えられる。