| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-110J (Poster presentation)

年輪判読によって解析されたウトナイ湖北西岸におけるハンノキ林の侵入、成立過程

*石川幸男(弘前大・白神自然環境研),矢部和夫(札幌市立大・デザイン)

湿原における乾燥化と森林化、特にハンノキ林の侵入は全国で顕在化している。北海道中央部のウトナイ湖でも湖面の周辺に広がるホザキシモツケやヨシ主体の高茎湿生草原にハンノキ林の侵入が著しいものの、その侵入、成立過程の詳細は不明である。本報では年輪判読からその過程を明らかにし、要因を考察する。

調査は、湖の北西岸に長さ250mから320m、幅5mの帯状区5本を設け、毎木調査、地形断面測量を実施した。また主要な個体について高さ50cmほどの位置で年輪サンプルを採取した。

地形は平坦で、各帯状区の内陸の始点から湖岸に向い標高約3mから4mの平坦地が数10m続いたあとに1mほど低下し、それ以降はほぼ同じ高さで推移していた。湖岸近くには縄文海進時に形成された砂丘があり、わずかに高かった。

各帯状区とも、内陸側20m~50mの範囲で比高の高い平坦部分にはコナラ等の乾性立地の樹木が生育し、そこから比高が一段低くなるとハンノキ林が分布していた。北東側を中心に一部ではハンノキ林を分断して高茎湿生草原も分布していた。ハンノキ林内では、直径が20cm前後の林冠個体以外にもさまざまなサイズの個体が生育していたが、小個体はほぼすべてが林冠個体の株からの萌芽幹であり、実生由来と推察される稚樹は皆無であった。ハンノキ林を分断する湿性草原内にもハンノキの実生、稚樹はほとんどなかった。

内陸部のコナラ等の樹齢は北西岸南西側の3帯状区では100年~50年の範囲に、また北東側の2帯状区ではやや若くて65年~45年であった。いずれの帯状区でも、ハンノキ林冠木の樹齢は内陸側でコナラ等と接する部分ではそれらとほぼ同じであったものの、一段低い平坦地になると、比高の高い砂丘等を除いて50年~20年程度であり、ここでのハンノキ林の侵入、成立は20年以上前にはすでに終了していたことが明らかとなった。


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