| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-314J (Poster presentation)
現在、生物多様性保全の観点から里山の価値が再評価されている。里山生態系は人為管理の下で持続すると考えられてきた。しかし、薪炭や落葉落枝の利用という、栄養塩収奪を伴う管理が里山生態系の長期的な栄養動態にどのような影響を及ぼすのかについては、系統立てた研究がなされていない。
そこで、本研究では、暖温帯常緑広葉樹林を原植生として持つ、コナラを主体とする二次遷移途上の代償植生を里山生態系のモデルとして栄養動態の解析を行った。特に、地質学的理由で栄養塩欠乏が生じやすい土地の森林を選び、管理と栄養動態の関係について現地調査と生態系モデルから明らかにした。調査地は愛知県瀬戸地方の東大生態水文学研究所内の風化花崗岩地質の赤津演習林と新第三紀層の堆積岩地質の犬山演習林である。赤津は18世紀末まで、犬山は1920年頃まで完全にはげ山化していた。初期には導入樹の植栽はあったものの、どちらも自然の遷移に任せた管理の下で植生回復していった経歴がある。
赤津ではヒノキが、犬山ではコナラが優占種であった。地上部バイオマスは赤津で189t/ha、犬山で120t/haあった。地上部バイオマス中の有機態炭素、全窒素の現存量は赤津で73tC/ha、0.6tN/ha、犬山で49tC/ha、0.3tN/haあった。地表から深さ20㎝までの土壌有機態炭素、全窒素の現存量は、赤津で76tC/ha、3.4tN/ha、犬山で111tC/ha、5.9tN/haあった。無機態窒素濃度は赤津が犬山よりも有意に低く、全リン濃度についても地表から10㎝以深で赤津が犬山よりも有意に低かった。これらの結果から、2つの森林の二次遷移途上での地上部バイオマスの増加量つまり炭素・窒素蓄積速度は概して遅く、さらに堆積岩地質の土地よりも風化花崗岩地質の土地の方が栄養は蓄積されにくいと判断された。人為管理による栄養塩収奪の遷移速度への影響は、Century Modelにより予測する。