| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T03-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

草原性刈取り残渣(藁撒き工法)を活用した草原再生

星野義延(東京農工大学)

藁撒き工法とは、種子を実らせた時期に刈り取った草を別な場所に撒き、敷きつめることによって種子を供給し、種子からの発芽によって植物の侵入を促す方法であり、Hay strewingの日本語訳である。ヨーロッパでは耕作地や牧草地などから草原や湿原を復元させる際に実施される種子のついた刈草の撒きだしに対してこの名が用いられている。Hay transferと呼ばれることもある。

藁撒き工法による草原の修復は日本ではほとんど行われていない。演者は2005年から2010年にかけて多摩川中流部の河川堤防草原において藁撒き工法を用いた草原の修復を行ってきたので、この取り組みの概要と成果を報告するとともに、現在進めている藁撒きプロジェクトを紹介する。

藁撒き工法を用いた草原の修復を行った多摩川中流部の堤防草原は、築堤が新しいため草原生の在来植物があまり出現していなかった。一方、この堤防の約1.5km下流には築堤の古い堤防上には多くの草原生の在来植物が生育するチガヤ-ススキ草原があり、この草原で刈り取った草を移植先の草原に移動させた。2005年から2008年は11月に、2009年と2010年は8月に移植元と移植先の草原の草刈を行い、移植先の刈草を除去したのち、移植元から運んだ刈草を敷つめた。

2010年には移植先の草原においてナンテンハギ、アキカラマツ、ヤマハタザオ、コバノカモメヅル、ワレモコウ、ノハラアザミ、スズサイコなどが新たに出現した。

藁撒き工法は植物の知識の少ない草刈業者でも施工可能なこと、処分される刈草を有効利用できることから少ないコストで実施可能な草原再生手法であり、予め持ち込まれる植物種子がある程度把握できる点で表土まきだし法よりも外来植物などの混入のリスクの少ない方法であると考えられる。藁撒き工法による草原修復では、質のよい移植元の草原の確保が最も重要な要件となる。


日本生態学会