| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T05-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

生物群集における機能形質の多様性と生態系機能の安定性:変動環境下におけるギルド形質の動態理論

田中嘉成(国環研)

環境変化に対する生物群集の反応を,機能形質の分布(形質の平均値など)の変化として解析する新たな群集生態学的手法を「形質ベースアプローチ(the trait-based approach)」という。ここではその理論的枠組みを研究した。群集内形質分布変化を多種系ロトカ・ボルテラモデルに基づいた数理モデルとシミュレーションで解析し、以下の結果が得られた。群集内(単一栄養段階の多種共存系)における種間競争が資源分割モデル(多次元類似限界モデル)に従うとき,群集内平均形質値の変化は,種選択係数(種の内的自然増加率の形質値に対する回帰係数)と形質分散の積に比例する。種数が多い場合,群集内形質分布変化は種数や種間相互作用強度によってほとんど影響されず,群集内の形質分散と種選択係数によってほぼ決まる。ただし,このことは,群集が動的平衡状態にあること,種間競争が対称的である資源分割型であることが条件である。また,多形質の場合は,群集内形質変化が形質野間の相関に大きく依存するため、形質間相関の情報は必須である。

このような解析手法の事例として、霞ヶ浦における動物プランクトン群集の長期変動と、水温および水質との関係を解析した。その結果、動物プランクトン群集は、水温の年次変動に応じて敏感に反応していること、しかし、種の水温適合性を決める機能形質と生態系機能を左右する形質(生態効率)との線形関係がなく、水温変動に対する生態系機能の反応は明確でなかった。動物プランクトン群集の摂食ニッチ(餌のサイズ)と生態効率は長期的に強く共変動しており、植物プランクトン群集の変動が、動物プランクトン種構成変化を介する生態系機能の低下の主要因であることが推測された。このような、形質ベースの群集解析は、生物多様性情報や環境因子に関する時系列もしくは空間データの解析による、生態系リスク要因の抽出への応用性が期待される。


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