| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T11-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
貧栄養、低温、夏期に限定された光環境という極限的環境にさらされる南極大陸の淡水湖では、湖底にシアノバクテリアと緑藻からなる特異な底生光合成生物マット群集が形成される。この湖底微生物群集マットの表層には光防御物質が集中し、その下層では活発な光合成が行われている。これは、表層に光防御色素を多く持つ「利他的な」微生物が集中して、下層に生息する微生物の光合成の効率を高めるような群集構造が、光資源を巡る競争の結果として形成されたためと考えられる。このような群集の形成過程と平衡状態を数理モデルで解析した。
微生物の各種がもつ、波長特異的な光防御(カロテノイドらの防御色素による吸収・散逸)と光吸収スペクトルとを明示的に取り入れて、マット上層の群集の光適応、それによって決まる下層群集の光環境、そのもとでの下層群集の適応というように、上層から下層にカスケード的な影響による群集形成を数理モデルで解析した。各層への入射光スペクトルと、藻類の防御用と光合成用の吸収スペクトルによって純光合成速度が決まり、その藻類の増殖速度が決まるとした。ただし光吸収効率全体に比例するコストがかかるとした。純光合成速度を決めるサブモデルとして、個々の光合成システムPS2が不活性状態、活性状態、不能状態の3状態のいずれかにあると考え、色素が光子を吸収すると不活性から活性状態に遷移し、暴露される光エネルギー強度に比例して不能状態への遷移が起こるとした。これらの仮定のもとで、防御・光合成の吸収スペクトルそれぞれを自由に選べるときの進化的安定な群集について解析した。
この微生物間の光資源を巡る競争と強光阻害への適応の結果として形成されるマット表層からの微生物群集の平衡垂直分布として、南極湖底の藻類マットの層構造が理解できるかどうかを議論する。