| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T14-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
現象としてのクラインは確かに存在する。だが、研究者自身が扱うテーマによってクライン研究における“立ち位置”が異なることによる弊害はあまり知られていない。量的形質のクラインのような種内多様性は、遺伝的要因の影響を強く受ける場合、環境などの後天的要因が主因となる場合、そして、その両方の影響を受ける場合に大別できる。
内温性動物に認められる体サイズの正の緯度クラインは、環境勾配に対する連続した遺伝的変異であり、局所適応の結果として解釈される(ベルグマン則)。一方、外温性動物での体サイズに認められる緯度クラインのように、外気温など発育上の制約となる要因による発育の可塑性として解釈され、必ずしもクライン自体には適応的意義が見出されない場合がある(温度―サイズ則)。エンマコオロギの体サイズの緯度クラインは、発育期間を制御する日長反応性遺伝子の緯度に沿った変異と外気温や利用可能な季節の長さ等の環境要因の緯度変異の相互作用により形成されている。したがって、野外で環境勾配に沿った量的形質クラインが観察された時、その要因を見極めるにはまず、遺伝的要因と環境要因、さらにそれらの相互作用の相対的重要性を精査する必要がある。量的形質のクラインの研究では、扱う形質の発現機構を十分に理解することが必要となるが、いずれの場合においても、形質の勾配をもたらす至近要因が究極要因に直結するとは限らないため、適応的意義の解釈には注意を要する。
環境勾配があるにもかかわらず表現型に地理的変異がない場合にも、環境応答の遺伝子には「隠れたクライン」が形成されていることがある。このようなクラインは、環境によらず形質を一定に保とうとする結果として現れるものである。本発表では、量的形質に関する様々なクライン研究を概観し、その成立機構との関連性について紹介する。