| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T14-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

クラインの総合的理解とクライン研究の展望

*鶴井香織(弘前大)・高橋佑磨(東北大)・森本元(立教大/東邦大)

近年、古典的なクライン研究について近代的な研究手法を駆使して再検討を加え、過去の見解を修正する例が報告されるようになった。また、クラインの動態を長期にわたり追跡することで、選択圧の変化に対する形質の反応や長期にわたる遺伝子流動の影響を評価した例も報告されている。オオシモフリエダシャクの黒化型頻度のクラインを30年前と現在とで比較した研究では、数理モデルおよび分子生物学的手法から、クラインの維持メカニズムにとって中心的なテーマである選択圧の強さと遺伝子流動の大きさの相対的な重要性について検討されている。シカネズミにみられる生息地の土の色に沿った体色クラインも数学的および分子生物学的手法の組み合わせにより、体色クライン維持における選択圧の重要性およびその遺伝的背景が検討された。これまで、クラインが維持されている理由の一つとして、個体群間の差異を打ち消す遺伝子流動が小さいからであると考えられてきた。しかし、これらの研究が共通して指摘している点は、野外における遺伝子流動は想定されてきたよりも大きいということ、そして、大きな遺伝子流動があるにも関わらずクラインが維持されているということである。このような報告例はまだ少なく、さらなる検証が求められる。

クラインのメカニズムをさらに理解するためには、最新のツールを用いた古典的な野外報告例の再検討が有効な手段の一つである。そして、これらの試みから浮かびあがってきた新たな仮説は、緻密な実験による選択圧の特定を経ることで、クライン理論をより頑強なものにするだろう。これらのフィードバックを重ねた末にメカニズムの明らかとなったクラインは、適応進化を実証する強力な根拠を与え得る。クライン研究はこれから熱いテーマである。


日本生態学会