| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T16-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
淡水魚の集団構造や分布域形成過程の解明,あるいは保全を考える上で,遺伝指標に基づく集団構造解析と,地形・気候データと分布情報から求めた生態ニッチモデリング(ENM)を組み合わせたアプローチは有効である.ここでは,北海道の淡水魚類相の成立を考える上で重要(前川・後藤, 1982)である冷水性淡水魚フクドジョウ(ドジョウ上科)を対象にした,ENMに基づく集団構造推定の試みと,その保全への応用を紹介する.本種の分布域を網羅したサンプルを用いてミトコンドリアDNAによる集団遺伝解析を行い,以後のENMによる集団構造推定の検証に用いた.本種の分布データと気候・地形の環境レイヤーに基づいたENMから潜在的な生息適地マップを推定した.得られたモデルから,生息地間の結びつきの強さhabitat connectivityを求め,サンプル間の遺伝子流動量との相関を見た.その結果,一部の地域において有意な相関が見られたことから,ENMによる集団構造推定はフクドジョウにおいては部分的に有効であると考えられた.次に,気候変動が冷水魚類の集団構造に与える影響を評価するために,推定された未来の気候データに基づくENMを行い,本種の生息地の変遷を予測した.未来の分布モデルでは,好適生息地の面積は現在よりも大幅に(約14%)に減少すると推定された.さらに,その減少パターンは北海道内で均一ではなく,北海道北部・西部での減少が著しかった.将来の気候変動は,これらの地域に固有なフクドジョウの3つの遺伝グループの多様性・集団構造に対して極めて大きな影響を与えると考えられた.