| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T16-5 (Lecture in Symposium/Workshop)
現在、類似した環境に生育し、分布域が似ている生物群集の構成種は、氷期-間氷期の気候変動に対する応答も共通していた可能性が高い。したがって、その影響は、群集の構成種に共通する遺伝構造として今も残っていることが期待される。群集レベルでの分布変遷の歴史は、同じ群集に属する生物全ての歴史にとってベースとなるものであり、生物地理学だけでなく進化・生態学的にも重要である。しかし、これまでの生物地理研究のほとんどは個々の種に対して行われており、群集についての研究はほとんどされてこなかった。
本研究では日本列島に広く分布する温帯林群集に着目し、その構成種8分類群(ブナ、ウワミズザクラ、ツリバナ、ホオノキ、アカシデ、トチノキ、キブシ、ミズナラ類)の葉緑体DNAにおける遺伝構造について、地理情報システム(GIS)を用いたメタ解析による比較を行った。その結果、日本海側-太平洋側の脊梁山脈や北アルプスなど、特定の地形と一致する場所で複数種に共通した遺伝的境界が多くみられ、地理的障壁の影響が強く示唆された。それに対し、共通の遺伝的まとまりは、道南や東北北部といった連続的な温帯林が現存する地域だけでなく、関東平野や紀伊半島~四国東部など、現在は連続的な温帯林が存在しない地域にもみられた。このことは、現在の分布パターンだけでなく、氷期に各地に分断されて存在していたレフュジアの影響を強く受けて、それぞれの遺伝的まとまりが成立したことを示唆している。更に、この8分類群について生態ニッチモデリングを行い、氷期中のレフュジアの位置について予測を行ったところ、遺伝解析で得られた遺伝的まとまりの多くと一致する場所に共通のレフュジアの存在が示唆された。本発表ではこれらの結果に基づき、日本の温帯林群集について最終氷期以降の分布変遷シナリオを提唱する。