| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T18-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

序:なぜ今、里山の在来知?暮らしの中に潜む「内なる生物多様性」

日鷹一雅(愛媛大・農)

生態学者の多くは普通、生物多様性の諸事業に関わると、まず対象地域の生態系の概観や種構成、重要種群の個体群サイズなどの学術調査から入り、それを元に保全・再生シナリオを構想する。ところが、対象がSatoyamaのような永年にわたりヒトと自然が織り成してきたような生態系では、そこに佇んで来た在地の暮らし(Livelihood)との関わりを無視しては事がうまく運ばない事がある。仮に絶滅危惧種対象を対象にした事業の場合にしても、その村々の人々の暮らしとの接点を蔑ろにはできない。一方、保全対象がRDB以外の身近な普通種や生物資源では、在地の暮らしの中にあるモノに、まずはフォーカルポイントを置く事からはじめて、保全の和を広げていく別のシナリオも構想できなくはない(例:生物多様性えひめ戦略 2011)。ここでは生物多様性保全事業を進める上で、保全対象となる種や生態系はどう構想されるのかについて、より現実的なアプローチを論じたい。どのような種や生態系などが、「外から」で、逆に「内なる」なのかについて類型化する意識調査を参加型ワ-クショップの手法によって進めた。すなわち「外から」と「内なる」の生物多様性を参加者から引き出した結果、外来種か在来種かと言った単純な意識分化ではなく多様化する傾向が見られた。この過程は「内なる生物多様性」(日鷹 2010;2011)の参加型定義の深化であると考えられた。まずは在地の暮らしの中に潜む「内なる生物多様性」の抽出から、保全シナリオを構想した場合と、従来のように生物多様性の学術調査を行い、その内容を地域に提示し保全を喚起するアプローチとでは、どちらが実際に有効なのだろうか? 生物多様性と切り離された暮らし」はありえないとする一方で、「暮らしと切り離された生物多様性」の合理的な意義についても、在地知のフレーミング(Cohen 2009)から見出す必要がある。そのためには、里山の在来知に関して、研究蓄積を進める事は重要であるに違いない。


日本生態学会