| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T18-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
日本の農山村では、里山の多様な生物資源を持続的に利用するための在来知が伝えられてきたが、現在の暮らしの中ではほとんどみられなくなった。それでは、アジアの他の国々では、農山村の生物資源はどのように利用されてきたのだろうか。本発表では、東南アジアのラオスにおける水田の事例に焦点を当てる。
発表者は、2001年から2006年まで、ラオス中部サワンナケート県の水田地帯において、水田の生物資源とその利用について調査を行った。調査地の年平均気温は26.5℃、年間降水量は1473mm(そのうち5月から10月までの雨季に1299.2mm、11月から4月までの乾季に173.8mm)である。水田耕作は主に雨季に行われ、5月に耕起、6月に移植、10月から11月にかけて収穫される。調査地では農薬はほとんど使用されておらず、イネの収量は0.8t/haから2t/haであった。
まず、調査地の水田の大きな特徴は、多くの樹木が見られることである。水田の樹木は、フタバガキ科、マメ科、クワ科など100種を越え、薪炭材、建材、土壌改良、食料、薬、家畜の飼料として利用されていた。
次に草本植物では、ナンゴクデンジソウ、コナギ、ツボクサ、ヤナギスブタ、シソクサの仲間などは食用に、カヤツリグサの仲間はゴザの材料とされていた。
また雨季にはカエルやカニのほか、水田に遡上するコイ科、ヒレナマズ科、タイワンドジョウ科などの魚類、乾季には土に潜ったコオロギや、スイギュウの糞に集まるフンチュウ、水田の樹木に生息するトカゲやツムギアリも日常的に採集されていた。
このようなラオスの水田生態系も今後、農業近代化の影響で変容していくと考えられるため、水田の多様な生物資源を持続的に利用するための在来知を記録する必要がある。