| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T19-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

ショウジョウバエ近縁種間における食性多様化の遺伝的メカニズム

松尾 隆嗣 (東大・農学生命・応用昆虫)

昆虫の食性決定において、化学感覚系の果たす役割は大きい。化学感覚受容に関わる機能の変化は食性多様化の原因となりうる。セイシェルショウジョウバエは、モデル生物であるキイロショウジョウバエから見て最も近縁な種のひとつであるが、生息地においてはヤエヤマアオキの果実のみを繁殖場所としている。ヤエヤマアオキの熟果は、節足動物に対して広く毒性を持つオクタン酸を高濃度で含んでおり、セイシェルショウジョウバエ以外のショウジョウバエはこれを忌避する。我々は遺伝学的な解析により、オクタン酸に対する忌避行動に匂い物質結合蛋白質が関与していることを明らかにした。セイシェルショウジョウバエと最も近縁なオナジショウジョウバエとの分岐は数十万年前と推定されている一方、生息地であるセイシェル諸島へのヤエヤマアオキの移入は人為的なもので、高々数千年以内の出来事であるという説も提唱されている。我々の得た結果と、オクタン酸抵抗性に関わる遺伝子座についての先行研究を合わせると、セイシェルショウジョウバエの食草転換がごく短期間に完了したというシナリオも成立し得る。また、ショウジョウバエの味覚・嗅覚受容体遺伝子についてのゲノムレベル解析の結果を考慮したうえで、そのようなシナリオによる短期間での食草転換がどれほどの一般性を持ち得るかについて論じる。


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