| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T19-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
短期間での環境の変動への適応の1つに表現型可塑性がある.この現象は,環境条件に応答して適応的な形質を速やかに発現する機構として広く知られている.アブラムシは,1年の生活史の中で,多い種では季節に応じて様々なモルフを出現させるが,いかにして発生過程を改変するのかに関しては未解明な部分が多い.我々はこれまでに,エンドウヒゲナガアブラムシAcyrthosiphon pisumとソラマメヒゲナガアブラムシ Megoura crassicaudaを主な研究対象として生活史多型をもたらす発生機構について様々な解析を進めてきた.
夏期の胎生単為生殖世代に密度条件に応じて生じる翅多型の研究では,有翅・無翅型ともに1齢幼虫期には翅原基は持つが,有翅型では翅原基と飛翔筋が2−4齢の間に大きく発達するのに対し,無翅型では1−2齢にかけてアポトーシスによる退縮が起こることが示された.また,飛翔器官の発生は大きなコストとなるため,有翅型では卵巣発達が遅れるが,大きさに比して発生ステージの進んだ胚を体内に保持しており,飛翔後の速やかな産子開始に適応していると考えられた.
また,秋季には低温短日条件に依存して,オス個体や産卵虫が産出され有性生殖を行う.この際には,体内の幼若ホルモン(JH)濃度の低下により繁殖の切り替えが起こることが明らかとなり,JH分解酵素(JHE)をコードする遺伝子の発現が上昇することでJH濃度の低下が引き起こされることが,遺伝子発現解析により示唆された.さらに,本州の個体群には,有性生殖世代を失い,単為生殖のみを行うものがあるが,これらの個体は低温短日下においてもJHEの発現は上昇せず,JH濃度も下降しないことが示された.これらの個体群では,異なる環境下での選択に晒された結果,遺伝的同化により分子機構が改編されたことが示唆される.本講演では結果に基づき,表現型可塑性の分子基盤のいかなる変化が表現型発現の進化をもたらすのかについても考察を深めたい.