| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) D2-14 (Oral presentation)

鱗食性シクリッドが示す左右非対称な捕食行動の獲得過程

*竹内勇一(名古屋大・理,学振SPD),堀道雄(京都大・理),小田洋一(名古屋大・理)

行動の左右性(利き)は、ヒトの利き手をはじめとして脊椎動物で幅広く見られる現象であり、生存上有利に働くと考えられている。では、行動の左右性はどのように獲得されるのだろうか?行動を制御するのは脳であり、行動の左右性を発現する神経回路の形成や働きは、遺伝的要因に依存するとともに、発達過程における学習によって影響をうけると考えられる。しかし、明確な規則性は明らかにされていない。

左右性のモデルとして有名な鱗食魚Perissodus microlepisは、他の魚の鱗をはぎとって食べる。本種の口部は左右で大きさが異なり、口が左右一方にねじれて開く。これまでに、この口部形態の左右非対称性は捕食時の襲撃方向と対応することが、成魚を対象とした野外調査・行動実験から示されていた。一方で、口部形態の非対称性は遺伝形質で稚魚でも見られるものの、捕食行動の左右性の獲得過程は不明であった。

そこで、様々な発達段階の鱗食魚(稚魚期~若魚期~成魚)を野外で採集して、胃内容分析を行い、摂食していた鱗の形状を精査して捕食行動の左右性を推定した。もし捕食行動の左右性が、遺伝的に決定されるのであれば、発達初期から片方の体側の鱗しか摂食していないと予想される。他方、行動の左右性が学習で獲得されるのであれば、発達初期は両体側の鱗を摂食しているが、成長とともに襲撃方向間の捕食成功率の差を学習し、片方の体側の鱗のみに偏るであろう。

分析の結果、標準体長35mm以上の個体は専ら鱗を摂食していた。そして、鱗を食べ始めてすぐから口部形態に合った体側由来の鱗を摂食していたので、捕食行動の左右性は遺伝的な影響を受けていると示唆された。また、稚魚期から若魚期では、口部形態と合わない鱗を若干摂食していた個体も見られたので、学習効果で行動がさらに偏ることが考えられた。


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