| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) D2-15 (Oral presentation)
和歌川河口干潟に生息するテナガツノヤドカリは、繁殖期が10月まで続くにも関わらず、体サイズやハサミの大きい個体が雌雄とも7月に激減する。また、繁殖期の前半にはオスの大型個体はハサミが相対的に大きく、性内二型が見られるが、その傾向は7月以降消失する(Koga et al. 2010)。これらの現象が起こる理由として、夏以降捕食圧が高くなり、ヤドカリの大型個体が選択的に捕食され、その後の雄は成長してもハサミは小さいままだと考えた。そこで、テナガツノヤドカリの捕食者と捕食圧の季節的変化を室内実験により調べた。その結果、ヤドカリを捕食するカニはオウギガニ、イシガニ、タイワンガザミであることがわかった。オウギガニによる捕食数は少なく、季節変化も見られなかった。イシガニは年間を通して干潟に生息し、夏に捕食数が最大になった。タイワンガザミは稚ガニが8月から定着して、秋から冬にかけて捕食数が最大になり、12月には和歌川河口干潟で捕獲できなくなった。しかし、イシガニは、夏にヤドカリの大型個体を好んで捕食すると予測したが、そうではなかった。ヤドカリの大型個体が選択的に捕食されなかったのは、室内実験での環境が自然条件とは異なっていたからであろう。よって、今後は野外での観察も行う必要がある。先行研究でテナガツノヤドカリの大型個体消失の原因として、夏にかけて捕食数が増加するイシガニが、ヤドカリの大型個体を捕食した可能性が考えられる。ヤドカリを多く捕食する理由としては、イシガニの繁殖期が夏で、この時期のイシガニの餌条件が変化することが考えられる。また、ヤドカリのハサミが大きくならない理由として、夏から冬にかけて捕食圧が高く、大きなハサミを持つことでリスクが高まるためと考えられる。