| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) D2-16 (Oral presentation)
捕食圧は生物の行動に強く影響する選択圧である。捕食を回避する行動の発達には、捕食回避能力に劣る個体が捕食されて個体群から除かれるという進化プロセスが重要だと考えられているが、餌動物もそれほど単純ではなく、捕食されそうになった経験をもとに危険な状況を学習し、行動を改善することが近年報告されている。しかし、捕食-被食関係はおおむね複雑であり、自分ではなく子のみを襲う捕食者や、狙われる状況が異なる何種もの捕食者が存在する。複雑な捕食リスクの違いを餌動物はどの程度見分けられるのだろうか。
我々は、沖縄県大東諸島に生息するダイトウメジロという小鳥を対象に、巣を襲う捕食者への対捕食者行動(巣場所選択・捕食者への警戒)を個体レベルで調査してきた。大東諸島は海洋島であり、メジロの巣を襲う捕食者はクマネズミとモズだけである。捕食率と巣場所の関係をみると、両捕食者とも周囲から見えやすい巣を襲う傾向がある一方、低い位置の巣はネズミに、高い位置の巣はモズに襲われやすい傾向があった。両種の捕食を避けるには、中程度の高さに隠された巣をつくることが必要となる。巣場所を選ぶ雄親の年齢と巣場所の関係を調べたところ、若い雄より年長雄の方が巣の隠れ度合い・巣高ともに高く、3歳以上の雄はネズミとモズ両方の捕食を避けられる中程度の高さに巣をかけていた。
若い親が捕食されやすい場所に巣をかけてしまうのは、捕食者の認識が不十分だからではないかと考え、両捕食者の剥製を親に提示する実験を行った。モズへの警戒強度は親の年齢間で違いがなかったが、ネズミへの警戒強度は若い親の方が弱く、若い親はネズミを捕食者として認識できていない可能性がある。ダイトウメジロは、繁殖経験を積むことで捕食者のリスクを認識し、年齢と共に営巣場所を改善できると考えられた。