| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) D2-19 (Oral presentation)
鳥類の多くは雛が排泄する糞を巣外へと捨てることで巣内衛生を保つ.これにより捕食者の誘因や寄生虫の繁殖などを防ぎ,高い繁殖成績を得るといわれている.しかし,樹洞営巣性のフクロウ類は糞の除去を行わず,糞尿の堆積・腐敗によるアンモニアガスの蔓延やウジなどの発生が顕著である.この一見劣悪とも思える巣内環境は,捕食リスクや寄生虫などのストレス負荷を高め,雛の成長に負の影響を与えている可能性がある.逆に,特異的な巣内環境を作り出すことで,特定の生物を誘因・除去し,繁殖成績を高めているのかもしれない.本研究では,人為的に巣内の糞を除去することで,巣内環境や雛のコンディションに与える影響を調べ,フクロウが巣内衛生を行わない理由を明らかとすることを目的とした.
2012年6~7月に沖縄島やんばる地域において巣箱を80ヵ所に設置した.リュウキュウコノハズクOtus elegansが営巣した20巣中10巣を実験巣とし,糞の除去操作とあわせ巣内環境と雛の外部形態などを4日ごとに記録した.同時に,巣箱内外の生物相と雛体表部における寄生虫の個体数も記録した.親鳥の営巣放棄や雛への直接的な影響を避けるため,除去操作を含む人的負荷を最小限にした.
当初の予測に反し,糞の除去を行った実験群で雛のコンディションが低く,巣立ちまでの日数が長かった.実験群ではハジラミなどの外部寄生虫やカ・ブユなどの吸血性昆虫が多かった.また巣内環境が高アルカリとなるにつれ,それら寄生率・侵入率が低下した.以上より「糞尿の堆積によって巣内が高アルカリ環境へと改変され,それが外部寄生虫・吸血性昆虫の忌避要因となり,結果的に雛のコンディションを高くする」という巣内“非”衛生の適応的意義が示唆された.