| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) D2-20 (Oral presentation)
本研究では2010年10月に捕獲された雌成獣(61kg)のツキノワグマ(以下“2010♀”とする)および2011年7月に捕獲された雄成獣(72kg)のツキノワグマ(以下“2011♂”とする)の2頭に新しく開発した小型,堅牢のビデオカメラ付き首輪を装着し,映像による行動解析の有効性を検証した。調査地は,中部山岳地の一郭,立山カルデラ周辺(標高1000~1700m 付近)である。ハンドリング時の不動化麻酔が行動に与える影響を考慮して,タイマー制御により放獣から一定時間以上経過した後に撮影を開始する設定とし,任意の撮影期間が終了した後にタイマー式脱落装置を作動させ回収した。その結果、2010♀で2日間、計4時間46分、2011♂で4日間,計5時間59分の映像が得られた。なお,首輪には行動軌跡を記録するためGPS ロガーを付加している。映像からはクマの移動行動について、大きく移動する「歩く」,探餌や探索などの「ゆっくり歩く」,移動を伴わない「止まる」に区分した。その上で「鼻を1秒以上対象物に接近させる」「鼻を高く掲げ上下する」等の匀嗅行動,「周囲を見回す」確認行動,および採食行動等を識別し、各行動の継続時間を1秒単位で算出することで行動及び採食に関する定量評価を試みた。採食物については草本類では種レベルで同定が可能であり、かつ部位(葉柄のみ採食、葉身を採食等)の判別も可能であった。これにより、各採食品目ごとの採食頻度、採食所要時間等の算出が可能となった。また,2011♂については他個体との交尾と思われる乗駕行動や,他個体と行動を共にする様子が撮影されている。映像による行動記録は現時点では撮影時間が短いという課題はあるが,これまでツキノワグマでは困難であった,採食生態に関する検討を可能にし、さらには繁殖行動,社会行動といった基礎的な生態に焦点を当てた研究を行うために有効な手段であることが示唆された。