| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) D2-22 (Oral presentation)

次世代シーケンサーを利用したシロアリの兵隊分化を引き起こす遺伝子の解析

*前川清人(富山大院・理工),矢口甫(富山大院・理工),重信秀治(基生研)

社会性昆虫のうち,形態や役割が最も特殊なカーストとしてシロアリの兵隊が挙げられる。兵隊は二次的に失った数種を除いて全種が保有し,シロアリの進化の過程で最も最初に獲得された不妊カーストであるとされる。唯一の役割は巣の防衛であり,職蟻からの分化過程で特徴的な武器形態を発達させる。兵隊分化は,職蟻の幼若ホルモン(JH)量の上昇が重要で,JHを職蟻に投与することで人為的に誘導できる。ただし,自然条件下での兵隊分化は稀な現象であるために,分化前から個体を特定し,JH量の上昇とその後の変化をもたらす要因を解析できた例は無かった。

近年我々は,系統的に祖先的なネバダオオシロアリZootermopsis nevadensisにおいて,生殖虫による創設直後の初期巣では,最初に3齢に脱皮した個体が常に兵隊に分化することを明らかにした。この個体は,他個体よりも生殖虫からの栄養交換を顕著に多く受けていた。これは,兵隊分化前の個体を特定できた初ケースである。そこで,分化前に特異的に発現する遺伝子を網羅的に探索することを目的とし,次世代シーケンサーを用いたRNA-seqを行った。その結果,最初に3齢に脱皮した個体は,巣内で2番目に生じた3齢個体と比較して,頭部と胸腹部のいずれにおいても,キイロショウジョウバエのリポカリンNeural Lazarilloのホモログ(ZnNLaz)が顕著に高い発現を示した。次に,ZnNLazのRNAiを行った結果,コントロール(gfp,DDW)と比較して,兵隊に分化する個体の割合は著しく減少し,多くの個体が4齢に脱皮した。ショウジョウバエでは,NLazがインシュリンシグナル経路を抑制することが知られるため,シロアリの兵隊分化過程における本経路の関与が強く示唆される。関連因子の発現解析の結果も踏まえ,兵隊分化の生理的な背景を議論する。


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