| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) F1-01 (Oral presentation)

草原利用におけるヤギとヒツジの比較生態

藤田昇(地球研)

草原を利用した家畜飼育において、ヤギはヒツジと比べて、樹皮までかじって樹木を枯死させるとか草本の地下部まで食べて害を与えるとして、草原を衰退させる悪者となっている。それが本当かどうかを確かめるためにモンゴルの草原において、ヤギとヒツジの比較飼育実験を行った。実験は、異なる植生で小面積の柵に数日間飼育した餓えた状態で植生にどのような被害を与えるか、ヤギとヒツジの体重がどう変化するかを調べる方法を用いた。

前々回の大会では、小低木が混じる草原において、ヤギは小低木の葉を、ヒツジは草本を好むことを報告したが、今回はその実験の1年後の植生の被害状態と小低木が混じらない草本だけの草原で行った新たな飼育実験結果を報告する。

2010年夏に小低木(Caragana)が混じるステップ地帯の草原で100平方メートルの柵に1ないし2頭のヤギとヒツジを6日間飼育した結果、小低木の葉と草本はほぼ食い尽くされた。ヤギとヒツジを柵外に出してから柵を残したまま1年後に植生の回復を調べると小低木の葉はほぼ100%回復したが、多年草の地下部を食べられた部分は回復せず、かわりに1年草(Artemisia annua)が出現した。多年草の被害はヤギとヒツジでは差がなく、それおぞれ1頭と2頭では差があった。

2011年夏に同じステップ地帯の小低木がなくなって草本だけの衰退した草原で、200平方メートルの柵にヤギとヒツジそれぞれ2頭づつ、ヤギとヒツジ各1頭の計2頭の3つの条件で3日間飼育した。3日間で草本を食い尽くすという遊牧民長老の予測に反して、草本はよく残り、家畜の体重減は少なかった。ヤギには全く体重減は見られなかったが、ヒツジはイネ科ハネガヤ属(Stipa)の優占度に左右され、ハネガヤ属の少ない柵では体重が減少した。ヤギと同居させたヒツジも同様であった。


日本生態学会