| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) F1-02 (Oral presentation)

コナラ種子の化学形質は実生の大きさと防御形質に引き継がれる

*島田卓哉(森林総研・東北), 柴田銃江(森林総研・東北)

【目的】大きさや化学成分などの種子形質には,著しい種内変異が存在することが知られている.種子形質の変異は実生の形質に影響すると想定されているが,実際にはこうした影響は種子サイズや発芽時期といった見える形質でしか確認されていない.そこで,種子の化学的形質が実生の形質に影響するかどうかを,コナラ種子を用いて検証した.

【方法】岩手県盛岡市で採取した健全なコナラ種子120粒の種皮を取り除き,子葉のうち一方を播種し,もう一方を化学分析のサンプルとした.子葉間では成分にほとんど違いがないことは先行研究で確認している(Takahashi & Shimada 2008).播種した個体は温室内で生育させ,本葉展葉後に採取し,部位別に乾燥重量および化学形質を測定した.種子および実生の化学形質として,タンニン含有率および非構造性炭水化物含有率を測定した.

【結果・考察】種子形質間の関係を解析したところ,タンニン含有率と種子サイズおよび非構造性炭水化物含有率との間には明瞭な負の相関が,種子サイズと非構造性炭水化物含有率との間には正の相関が認められた.ついで,発育ステージ間の関係を解析したところ,実生重量は,種子サイズの増加に伴って増加し,種子のタンニン含有率の増加に伴って減少することが示された.同様に,本葉の数は,種子のタンニン含有率が高いほど減少した.また,実生全体のタンニン含有率は,種子の非構造性炭水化物含有率が高いほど低くなることが判明した.以上の結果は,サイズだけではなく種子の化学的形質が,実生の大きさや防御形質に影響を与えることを示している.すなわち,種子形質は,Seed fateへの直接的な影響のみならず,実生の形質を介した複層的な影響を植物個体の生存過程に及ぼすことが示された.


日本生態学会