| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) F1-04 (Oral presentation)
イチジク属植物(クワ科)は約800種が生育し、その多くが種特異的なイチジクコバチ(イチジクコバチ科)によって送粉されている。イチジクコバチは送粉の報酬として、幼虫期の餌をイチジクからもらうため、両者は相利共生の関係にある。イチジクは花から種ごとに特徴的な匂いを放出し、イチジクコバチを花へ誘引することが知られている。すなわち、花の匂いは両者の繁殖を支える重要な形質であるといえる。
イチジク属の中でも、雌性両全性異株の種の多くは、パッチ状に生育し、それを送粉するイチジクコバチはパッチ内で移動することが多く、広く分散することが少ないと考えられている。すなわち、このような種の場合、たとえ広域に分布していたとしても、実際には遺伝的に分断したいくつかの集団に分かれ、花の匂いにも地理的な変異が起きている可能性がある。
本研究では台湾と日本に生育する雌性両全性異株のオオバイヌビワとオオバイヌビワコバチを対象に、マイクロサテライト8領域を用いて集団間の遺伝的交流の程度を調べた。また、各個体群で花の匂いの捕集および分析を行った。その結果、オオバイヌビワは台湾-石垣島-沖縄島の間で、それぞれゆるやかな遺伝的な分断がみられたものの、台湾内では遺伝的な分断が見られなかった。また、花の匂いに関しても、遺伝的な分断が見られる集団間で同様に違いが見られた。一方、オオバイヌビワコバチは集団感での違いがほとんどみられなかった。これらの結果から、オオバイヌビワコバチは集団を越えて繁殖を行っているか、もしくは近年になって急速に分布域を拡げたために、遺伝的な分化がまだ起こっていないと考えられる。今後は行動実験によって、異なる集団の花の匂いに対してオオバイヌビワコバチが選好性を示すかどうかについて検証を行う必要がある。