| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) J2-13 (Oral presentation)
ため池に生育する水生植物には、絶滅危惧種に指定されている種が多い。一方で、これらの種が生産する種子は、数十年に渡る寿命を持つことが知られている。そのため、ある時点で水生植物の地上個体群が消失したとしても、それが直ちに局所個体群の絶滅に繋がるわけではなく、外的要因の変化に伴って地上個体群が再生するなど、その消長は年ごとに変化する。したがって、これらの水生植物の絶滅リスクを推定するためには、長期に渡って観測された消長データが必要となる。
本研究では、1974年から2011年まで断続的に調査されてきた東広島市西条地区一帯のため池群(計416池)における水生植物相の記録を統合・データベース化し、この期間におけるそれぞれの池での各種の消長パターンを得た。その上で、このデータから推計した地上個体群の消失・再生確率および既存情報から得られた種子の寿命を考慮し、個体群存続可能性分析により各種の池ごとの絶滅リスクを算出した。
その結果、当該地のため池群における水生植物の絶滅リスクは、現行の絶滅危惧種のみならず、普通種とされるものの中でも大きな値をとる種が存在することが明らかとなった。本研究ではさらに、新たに開発した多種の絶滅リスクを効果的に減少させるように生育地の保全優先順位付けを行うツールを用いて、優先的に保全すべきため池を選択し、結果を地図化した。
長期消長データの活用により、実効性が高い保全戦略を構築する本アプローチの枠組みは、地域・生物群問わず幅広く応用することが可能である。