| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) J2-14 (Oral presentation)
霞ヶ浦では1996年以降、霞ヶ浦開発事業の計画にもとづく水位管理が実施され、従来よりも高い水位(標高1.1~1.3mYP)が年間を通して維持されるようになった。この水位は、現存する典型的な抽水植物帯の地盤の標高(約1.1mYP)と同等かやや高い比高にあたるため、地盤の侵食をもたらす可能性がある。本研究では、抽水植物帯の衰退の程度と特徴を明らかにするため、国土交通省および(独)水資源機構によって取得されたデータを提供していただき、解析を行った。
湖岸の34定点で測定された抽水植物帯の幅(護岸から汀線までの距離)の変化を分析した結果、1997年から2010年までの13年間に、9.54±7.71m(平均±標準偏差)の減少が認められた。また植生帯の幅の減少量と、各地点における波高の指標値との間には、有意な正の相関が認められた。
抽水植物群落の面積変化を分析した結果、1992年から2002年までの間に顕著に減少していたのは、比高が低く静穏な場所に成立するマコモ群落(1992年の43.05%のみ残存)やヒメガマ群落(同51.40%)であった。
現地調査の結果、抽水植物帯の湖岸側の端部において、基盤の土砂が流出し、ヨシ等の抽水植物の根茎が絡まりあって辛うじて残存している状況が、多くの地点で確認された。またそのように基盤の土砂が失われた抽水植物帯端部は、台風などで強い波浪が生じた後に流亡する場合があった。
現在の霞ヶ浦では、「水利用と湖の水辺環境との共存を模索する」ことを目的とした「水位運用試験」として、水位をさらに上昇させる(1.3mYPの期間を長くする)管理が行われているが、この管理は湖岸に残存する植生帯のさらなる衰退をもたらすことが予測される。(発表内容の一部は既報:保全生態学研究 17(2)141-146, 279-282)