| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-15 (Oral presentation)

保護区は絶滅リスクをどのくらい減らせるか? :維管束植物を対象とした全国評価

*角谷拓,竹中明夫(国立環境研), 矢原徹一(九州大学)

保護区の設置とその適切な管理は、生物の絶滅を防止し、生物多様性の喪失を食い止める上で最も重要な保全策の一つである。先に行われた生物多様性条約COP10においても、保護・保全地域を、陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%にまで拡充することが国際的に合意された。しかし限られた時間や資源の下で効果的な保全を実現するためには、単に保護区面積の拡充するというだけでは不十分であり、広域的な視点から総合的に計画を策定する必要がある。そのためには、既存の保護区の効果の定量的な評価や効率的な空間配置の検討を行うことが欠かせない。

国内における主要な保護区制度である国立・国定公園は国土面積の約9.1%(特別地域は7.3%)を占めている。本研究では、レッドデータブック編纂のために日本植物分類学会と多数の専門家の手により収集・構築された絶滅危惧維管束植物データベースを用いて、そこに登録された1610種・分類群を対象に、国立・国定公園がそれぞれの種・分類群の局所個体群サイズの減少を防止する上でどの程度の成功確率(以下、保全効果)を持っているかを全国スケールで評価することを目的とした。

分析の結果、国立・国定公園の特別地域全体の保全効果は20%程度、最も規制の厳しい特別保護地区では60%程度であることが示された。この結果は、既存の国立・国定公園は維管束植物の絶滅リスクの低減に一定の役割を果たしていることを示している。しかし一方で、新たに開発した多種の絶滅リスクを効果的に減少させるように保全地域の優先付けを行うツールを用いた分析から、保護区の空間配置を最適化した場合であっても、上記の現実的な保全効果の下では、陸域17%の保護区面積により維管束植物全体の絶滅リスクを十分に低減するのは困難であることが示唆された。


日本生態学会