| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) J2-16 (Oral presentation)
生物多様性の再生を行うべき場所を優先順位づけし、地図化するための方法論は保護区設置の試みに比べて十分に確立していない。本研究では、対象生物群集の過去と現在の分布データを基に相補性解析を行うことで、再生の空間的優先順位づけを行うためのフレームワークを提案する。
本フレームワークとは、現在と過去のデータから、対象生物各種の「いなくなった地点」のデータを得て、その相補性から各対象地点の再生ポテンシャルを評価するというものである。すなわち、種の減少が見られた地点の中から、より多くの種が減少した、あるいは(減少が見られた種の中で)希少な種が喪失した地点群が、ポテンシャルが高い再生候補として選択される。ただし、多様な種が喪失した地点は、現在も再生が非常に困難な人為的負荷を受けている可能性もあるため、優先順位づけの際に各地点の再生の困難さをコスト(減点対象)として考慮する必要もある。
このフレームワークの応用例として、1978及び1998年に20kmメッシュ単位で得られた日本全国の繁殖鳥類分布データを用いてレッドリスト鳥類群集の再生優先順位を地図化したところ、山間部だけでなく水辺にも優先度が高い地点が多いこと、7メッシュが2010年時点の法定自然再生事業の対象地域を含んでいることが示された。また、市街化の程度をコストとして考慮することでトキの再生が試みられている小佐渡地区の優先順位が向上する等、より現状に即した優先順位づけが行われたことが示唆された。
その簡便さから、本研究のフレームワークは再生対象種群の減少要因に十分な知見がない場合に、戦略的な再生を順応的に行う際の暫定目標を提供するものとして有効であることが期待される。