| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) J2-17 (Oral presentation)
人の管理によって維持されてきた系では、開発などの過剰利用だけでなく利用の減少も生物多様性消失に繋がる可能性がある。その典型例のひとつである農地生態系は、氾濫原や草地の生物の重要な代替生息地とされるが、農地整備などの集約化と農業人口減少による耕作放棄が急速に進んでおり、これら双方の影響解明が急務だと考えられる。そこで演者らは、日本の特徴的な農地景観、谷津田の代表種である猛禽サシバとその餌生物カエルに注目し、耕作放棄の進む中国地方北西部を対象に、耕作放棄および農地整備との関係を調べた。
調査では、14の谷津田にサシバ行動圏と大よそ同じ面積の調査区画を43設置し、サシバ生息の有無とカエル密度、農地の配置や植生などを記録した。耕作放棄と農地整備がカエルを介してサシバにおよぼす影響を評価するため、1. サシバの有無とカエル量の関係と、2. カエル量と水田面積や農地整備との関係を、一般化線形混合モデルによって解析した。
各区画の農地に占める耕作放棄地の割合は 0-71%で、サシバの食物になるような体サイズのカエルとして、主にトノサマガエルとモリアオガエルが確認された。サシバは、これらのカエル2種の多い場所に生息する傾向があったが、とくにトノサマガエルとの関係が強かった。そのトノサマガエル密度は、水田面積が広く農地整備されていない場所で高い傾向があった。一方、モリアオガエル密度は、農地整備とは関係しておらず、周囲に森の広がる場所で高くなる可能性が考えられた。
以上から、中国地方北西部の谷津田では、耕作放棄による水田の減少と農地整備が主にトノサマガエルなどの減少を介してサシバを減少させている可能性が考えられた。発表では、このようなパターンが生じた機構を議論するとともに、他地域でどのような可能性が考えられるかを検討する予定である。