| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) J2-23 (Oral presentation)
栃木県は、2007年には野生鳥獣による被害量が全国で3番目の多さを記録する等、鳥獣被害が深刻な地域である。県の環境森林部自然環境課では、野生動物との軋轢の解消のために、獣害対策モデル地区事業を2010年度から実施している。当事業では、県内で特に被害の多い地区をモデル地区に指定し、専門家による講習会や住民参加型の集落点検等を行い、住民主体の対策を促進することを目的としている。本研究では、当事業の効果を質的・量的に調査した。具体的には、3つのモデル地区(鹿沼市深程、那須塩原市百村本田、日光市明神)で、地区住民への聞き取り調査と活動の参加者へのアンケート調査を実施し、事業に対する感想や活動が地域に与えている効果について調べた。更に、事業を1年以上行っている深程と行政による被害対策が行われてこなかった近隣地区で全戸アンケート調査を実施し、住民の意識や行動に違いがあるか調査した。
聞き取り及び活動参加者へのアンケート調査の結果、モデル地区事業が地域住民が野生動物問題について共に考え、議論し、対策を実施するための機会を提供していること、一方で活動の持続可能性が課題であることが分かった。また、モデル地区と近隣地区でのアンケートの結果、モデル地区の住民の方が被害対策をすることへの自信が高いこと(p<0.05)、また被害対策に関する知識が高いこと(p<0.1)が分かった。
行政主導でスタートしたモデル地区事業だが、住民が主体の持続可能な取り組みにしていくためには、地区における野生鳥獣対策専門の住民組織の創設や、宇都宮大学と栃木県が共同で育成に取り組んでいる里山野生鳥獣管理技術者養成プログラムの修了者が、対策の専門家として積極的に地域の取り組みに携わることが期待されている。