| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) J2-24 (Oral presentation)
フチトリゲンゴロウCybister limbatusは、国内では南西諸島に分布する大型のゲンゴロウである。本種の生息地は極めて限られ、個体数も少ないことから環境省RDBでは絶滅危惧ⅠA類とされた。また2011年には種の保存法の国内希少野生動植物種に指定され、保全のための生態学的知見の解明が必要とされている。本研究では本種の幼虫期に着眼し、生息地の種組成と、実際に幼虫が捕食する餌生物を調べるとともに、飼育下において異なる餌生物を与えた場合の幼虫の成長と、各餌の成分を調べた。
生息地の種組成は、マツモムシ類が全体の約50%、次いでトンボ類幼虫が約30%を占めた。しかし、マツモムシ類は小さいうえに動きもすばやく、フチトリゲンゴロウの幼虫がマツモムシ類を取り逃がす様子を多数回確認したため、餌としては好適ではないと考えられた。次に、餌生物を捕食しているフチトリゲンゴロウの幼虫の個体数と捕食された餌生物の種類を調べたところ、いずれの齢期においても餌生物の約80%がトンボ類幼虫であった。
また飼育下において、トンボ類幼虫とカエル類幼生をそれぞれ飽和状態で与えた場合の、蛹化のための上陸までの日数と羽化後の体長を調べた。その結果、上陸までの日数は、トンボ類幼虫を与えた場合で21~24日であり、カエル類幼生を与えた場合の25~26日よりも早かった。さらに羽化後の体長もトンボ類幼虫を与えた個体では37.6~38.5㎜であり、カエル類幼生を与えた場合の35.4~37.1㎜よりも大きかった。それぞれの餌生物の成分分析においても、トンボ類幼虫はカエル類幼生と比較して含水率が低く、たんぱく質・脂肪・炭水化物が多く含まれており、栄養価が高かった。
これらのことから、トンボ類幼虫はフチトリゲンゴロウの幼虫期において重要な餌生物であると考えられた。