| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-26 (Oral presentation)

再発見種フジタイゲキの繁殖戦略と保護対策

*山田辰美(富士常大・社会環境),杉野孝雄(NPO静岡自然博ネット)

フジタイゲキは静岡県特産のトウダイグサ科の多年草で、富士山麓で採取された標本を基に、1920年に新種として記載された貴重種である。環境省のレッドデータブックで絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されていたが、今年度の環境省第4次リストでは絶滅危惧Ⅱ類(VU)に変更された。これはここに発表するフジタイゲキの再発見と保護対策の成果に因るものである。

1.分布の再発見と局在性:静岡県植物誌(1984)には静岡県の伊豆、東部、中部に10か所ほどの産地が記録されているが、次第に自生地が消失し、1960年代以降は確認されなかった。それが1996年に島田市の富士山静岡空港事業用地において発見され、その後、掛川市、菊川市で相次いで新産地が見つかったが、既存の産地では確認できないままである。

新産地はいずれもお茶の名産地にあり、自生地は茶園にひくための草刈り場(茶草場と呼ばれる)である。静岡県の茶産地ならではの採草地で昔ながらの草刈りが毎年実施されている数少ない場所であり、希少性や地域の片寄り、自生地面積の小ささなどの分布局在性の一端を説明できる。

2.フジタイゲキのフェノロジーと繁殖戦略:開花・結実期における草高や根系の形態等の比較から、ススキ・ネザサとの競合に勝つ繁殖戦略について検討した。さらに、アリに頼る種子散布方法と根系で継代する栄養生殖の実態を観察した。採草地に適応した生態であり、里山の生物多様性のメカニズムが再認識された。

3.保護対策とその成果:新産地3か所におけるモニタリングと保護活動の他に、富士山静岡空港とその周辺における自然保全区域への導入とその後の維持管理により、現在約1000株が保全されている。これらの継続的な保護対策は富士山静岡空港の自然環境モニタリングとして実施されており、これによってフジタイゲキの絶滅の危機は減少したと言えよう。


日本生態学会