| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-068 (Poster presentation)

一回繁殖型多年生植物オオウバユリにおける繁殖戦略の集団間変異

*田中絢子,早船琢磨,大原雅(北大・院・環境科学)

オオウバユリは、長い栄養成長期間を経た後一度の開花、結実で枯死する一回繁殖型多年生植物である。オオウバユリは花による種子繁殖と伴に、地中での娘鱗茎形成による栄養繁殖も行う。これまで、北海道各地の集団の繁殖特性を調査したところ、開花個体サイズが小さく(個体当りの花数が少ない)遺伝的多様性が高い集団と、開花個体サイズが大きく(花数が多い)遺伝的多様性が低い2つのタイプの集団が存在すること、さらに一回繁殖型であるにもかかわらず、この特徴は集団として毎年維持されていることが分かった。そこで本研究は、両タイプからそれぞれ3集団を選択し、各集団で開花個体サイズと遺伝的多様性が維持されている要因を明らかにすることを目的として行った。遺伝的多様性が異なる要因として、種子繁殖に着目し、送粉昆虫による花粉の移動距離、実生数、実生の遺伝的多様性の調査を行った。花粉の移動距離の計測には蛍光パウダーを疑似花粉として用い、また、遺伝的多様性の評価にはSSRマーカーを用いた。その結果、開花個体の遺伝的多様性が高い集団がより送粉距離が大きく、実生数も多かった。しかし、実生の遺伝的多様性に関しては、集団間で明瞭な差異は認められなかった。

遺伝的多様性が高い集団は、開花個体サイズは小さいものの、比較的集団サイズが大きい特徴を示す。従って、送粉者がより多くの個体を訪れることにより花粉の移動が生じ、多くの他殖種子が生産されることで、開花個体の遺伝的多様性が高く維持されていると考えられる。一方、開花個体サイズが大きい集団では、比較的集団サイズが小さいため、昆虫による花粉媒介も低頻度と考えられる。従って、種子繁殖による次世代個体の生産が少ないため、もう一方の繁殖様式である栄養繁殖がより集団維持に寄与していることにより遺伝的多様性が低い可能性が考えられる。


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