| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-069 (Poster presentation)
人為的な開発による生育地の分断化は、一時的に植物集団の個体数を減少させるだけではなく、種子生産量や遺伝的多様性の低下など、集団維持に影響を及ぼす。本研究の対象種のオオバナノエンレイソウは落葉広葉樹林の林床に生育する虫媒の多年生植物である。また、北海道に生育するオオバナノエンレイソウは自家和合集団と自家不和合集団が地域分化しており、自家不和合集団は日高・十勝地方に生育する。十勝地方は19世紀後半から農地開発が行われ、オオバナノエンレイソウが生育していた森林の多くが伐採されたため、森林は幾つかの林に孤立・分断化し、オオバナノエンレイソウもそのような林に残存している。先行研究から、個体数の少ない小集団では個体数の多い大集団に比べて種子生産量が少なく、さらに開花個体、種子、実生の各生活史段階の遺伝的多様性も低下することが示されている。これは、個体数が少ないことで訪花昆虫を誘引する魅力が低下し、花粉流動量が低下したことに起因すると考えられる。そこで本研究は、開花個体密度の違いによる花粉動態や繁殖成功を調査し、開花個体から種子へ生活史段階の進行に伴う種子生産量や遺伝的多様性低下の要因を解明することを目的とした。開花個体密度の違いによる直接的影響を調べるため、生育環境や訪花昆虫相が同じ集団内に開花個体密度の高い「高密度区」と開花個体密度の低い「低密度区」の2つの調査区を設定し、それぞれで花粉移動距離、昆虫の訪花頻度、結果率、結実率を調査した。
その結果、低密度区では高密度区よりも、訪花頻度、結果率、結実率が顕著に低いことが明らかになった。従って、自家不和合性で孤立・分断化したオオバナノエンレイソウ集団では、開花個体数の減少により訪花昆虫への魅力が低下し、個体間での花粉流動が低下することで、充分な種子生産が行われなくなっていると考えられる。