| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-071 (Poster presentation)

大台ケ原衰退林におけるトウヒの遺伝構造と繁殖に及ぼす立木密度の影響

*金森たみ子(三重大・生資),大江未奈美(三重大・生資),前田亜樹(三重大・生資),中井亜理沙(三重大院・生資),津田吉晃(Uppsala Univ.),石田清(弘前大),木佐貫博光(三重大院・生資)

植物集団において,花粉飛散による遺伝子流動は,集団の遺伝的多様性に大きな影響を及ぼす.また,風媒性樹木においては,立木密度が花粉飛散に影響を与える.奈良県大台ケ原では,かつて東部の高標高域を広く覆っていたトウヒ林の立木密度が顕著に低下するなど,森林の衰退が深刻である.本研究では,大台ケ原で立木密度が異なる2つのトウヒ林分において,成木の遺伝構造ならびに立木密度がトウヒの他殖率などに及ぼす影響を調査した.立木密度が比較的高い林分(約1.2 ha)と,比較的低い林分(約1.5 ha)で,合計23個体の母樹それぞれの,半径30m内における,トウヒ成熟個体だけの局所的な立木密度と,林冠に到達している全樹木の局所的な立木密度を測定した.母樹からそれぞれ30個の種子を発芽させた実生について,8遺伝子座でマイクロサテライト解析を行い,他殖率,2親性近親交配率を算出した.また,種子の父親を推定し,花粉飛散距離を算出した.調査区のトウヒ成熟木について同様のマイクロサテライト解析を行い,遺伝構造を調べた.局所的なトウヒ成熟木の立木密度と他殖率の間には,いずれの林分においても相関がみられなかった.局所的な全樹木の立木密度と他殖率との間も相関は認められなかった.また,両林分ともに2親性近親交配は確認できなかった.一方,花粉飛散距離には林分間で差が認められ,飛散距離は疎な林分の方が密な林分よりも長かった.成木の空間遺伝構造については,疎な林分ではランダムな遺伝構造であり,密な林分では約35m以内で正の,約75m以上で負の遺伝構造がみられた.このように立木密度は花粉流動に影響を及ぼすものの,繁殖成功のパラメーターには顕著な影響はみられなかった.


日本生態学会