| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-167 (Poster presentation)
生物の表現型は遺伝的要因のみに支配されているのではなく、外部環境の変化に応答し臨機応変に形質を変化させる。エゾアカガエル幼生Rana piricaはオオルリボシヤンマAeshna nigroflavaのヤゴに曝されると尾高を高くする(高尾化)。これは水生昆虫に対するカエル幼生の一般的な可塑的防御形態である。一方エゾサンショウウオHynobius retardatus幼生に曝されると高尾化に加え、頭部を膨らませる(高尾+膨満化)特有の可塑的応答をする。各々の誘導形態は各々の捕食者に対する防御形質として機能するが、ヤゴ誘導性の高尾形態ではサンショウウオ幼生への防御効果は薄い。ここからエゾアカガエルはヤゴ等の水生昆虫への高尾化とは独立に、サンショウウオ幼生への防御形質を進化させたと考えられる。しかし各々の高尾化の遺伝的機構が未解明の為、各捕食者に対する高尾化形質の獲得機構を言及はできない。表現型可塑性の遺伝機構を理解することは、表現型可塑性の獲得や喪失の機構、ひいては新規環境への生物の定着可能性を解明する上で重要な知見である。そこで本研究では各捕食者によって誘導されるエゾアカガエル幼生の高尾化の遺伝的機構の解明を目的とした。エゾアカガエルのcDNAライブラリを作成後、マイクロアレイ解析を行った。通常個体に対してサンショウオ幼生に曝した個体とヤゴに曝した個体の尾部で各々発現量が変化した遺伝子を検出し、Gene Ontology解析を用いてその遺伝子群の機能を体系付けた。その結果、サンショウウオ幼生に曝した個体ではイオン輸送関連の遺伝子が、ヤゴに曝した個体ではヒストン様遺伝子が発現量変化しており、各々の高尾化は異なる機構で生じていることが示唆された。