| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-171 (Poster presentation)
キナバル山のあるボルネオ島北部は年中多雨であるが、数年に一度El Ninoによる数か月の旱魃が起こる。特に亜高山帯では低地に比べ旱魃の程度が大きく、植生の形成に強い影響を与える可能性が指摘されている。亜高山帯に幅広く優占する樹木L. recurvumには、葉の毛密度に個体間で表現型多型が存在し、表現型間で分布が異なる。葉の毛密度は乾燥への適応と考えられ、表現型の分化に乾燥ストレスが関係している可能性がある。
昨年度のSSR解析の報告では表現型間・優占型の異なるサイト間で遺伝的分化がないことを明らかにしている。今回、共通圃場実験によって表現型には遺伝的な基盤があることが示唆され、表現型の分化には遺伝子流動を上回る分断化選択が働いていることが示唆された。次いで、異なる表現型が混生したサイトでEl Nino時の死亡率を調べたところ多毛型変異のほうが死亡率が低かった。さらに、ガス交換特性と葉の窒素含量を表現型間で比較したところ、気孔コンダクタンスに差はなかったが、多毛型変異のほうが個葉の光合成水利用効率と面積当たり窒素含量が高く、多毛型変異は葉の窒素投資を増やし光合成活性を高めることで高い水利用効率を実現していることが示唆された。以上から、多毛型変異は少なくとも個葉レベルの適応によって耐乾性を高めていると考えられる。また、優占型が異なるサイト間で晴天時の土壌水ポテンシャルを比較したところ、多毛型変異の優占サイトで水ポテンシャルが低く、El Nino時には強い乾燥ストレスを引き起こす可能性が示唆された。以上の結果から、多毛型変異は乾燥しやすい環境に局所適応した変異であると考えられ、El Ninoの乾燥ストレスが分断化選択の一端を担っていると考えられる。