| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-255 (Poster presentation)

mtDNAとmsDNA解析に基づく、エゾヤチネズミ個体群の遺伝構造 -時間と空間、2つのスケールの観点から-

*杉木 学(北大・環境科学院),石橋 靖幸(森林総研),齊藤 隆(北大SFC)

生態学的要因を反映するスケールにおいて、遺伝的空間構造を把握する事は、「個体群」の理解の一助になると考えられる。先行研究において、北海道に生息するエゾヤチネズミのミトコンドリアDNAのコントロール領域(674 bp)を用いた集団遺伝学解析が行われた。その結果、局所スケール(石狩の森林2km)における地理的距離と遺伝的距離の関係には雌雄間で差があることが解った。分散をよく行う雄では分化の程度が低く、集団全体の構造は均一であった。一方、定住性である雌では、分化の程度が高く、「距離による隔離」のパターンを示すことが解った。しかし、エゾヤチネズミは年間で個体数変動があり、また分散パターンも同じとは限らない。よって、この集団の遺伝的空間構造の把握のためには、一年だけの結果では不十分である。そこで、本研究では、3年間の遺伝的空間構造を比較した。3年間のデータを解析した結果、地理的距離と遺伝的距離の関係において、雄では、毎年、安定して遺伝的分化の程度が低い傾向が見られた。この事から、雄の分散は年に関係なく安定して行われており、遺伝子流動の力が遺伝的浮動の力を常に上回っていることが示唆された。一方、雌では、毎年共通して分化の程度が雄よりも大きいが、「距離による隔離」のパターンは見られない年があった。つまり雌では定住性により、遺伝的浮動の効果が強く反映される。しかし、分散の程度が年によって異なる事で、遺伝的浮動と遺伝子流動のバランスが変化する事が解った。以上の結果から、このスケールにおけるエゾヤチネズミ集団は雄が安定して集団内の遺伝子の交流の役目を担うのに対し、雌の遺伝子流動と遺伝的浮動の効果のバランスが異なることで、雌雄全体での構造が毎年変化すると考えられる。


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