| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-267 (Poster presentation)

盗葉緑体が光合成ウミウシの走光性に与える影響

*宮本彩加(奈良女子大・理),酒井敦(奈良女子大・理),中野理枝(琉球大・理),遊佐陽一(奈良女子大・理)

嚢舌亜目ウミウシの中には、餌の海藻から葉緑体を取り込んで体内に保持して光合成に利用する能力(盗葉緑体能)をもつものがいる。盗葉緑体能のメカニズムについての研究は数多くなされているが、嚢舌類ウミウシにとっての盗葉緑体の意義や盗葉緑体がウミウシに与える影響については未解明のままである。そこで本研究では、盗葉緑体がウミウシに及ぼす行動学的な影響を解明するため、嚢舌類ウミウシ5種の走光性、およびうち1種において葉緑体の有無が走光性に及ぼす影響、の2点を調べた。

まず、片側から約320 μmol m-2 s-1の白色光を照射して光勾配を設けたI字型アクリル容器を用いて、5種のウミウシの走光性を調べた。その結果、光合成能の高いハマタニミドリガイとチドリミドリガイ、ヒラミルミドリガイでは、いずれも正の走光性を示した。対照的に、光合成能の低いアオモウミウシは走光性を示さず、同じく光合成能の低いミドリアマモウミウシは負の走光性を示した。また、容器内の実験個体の位置から算出した最適光強度は、高い方からハマタニミドリガイ、チドリミドリガイ、ヒラミルミドリガイ、アオモウミウシ、ミドリアマモウミウシの順となった。この順は、光合成能の高低および生息環境での光強度の順とほぼ対応することから、ウミウシは盗葉緑体に光合成を効率よく行わせるために最適な光強度を選択すると考えられる。

次に、ハマタニミドリガイを用いて、体内に健全な葉緑体がない飢餓個体の走光性を、葉緑体を保持している非飢餓個体と比較した。その結果、飢餓個体も正の走光性を示したが、非飢餓個体に比べて最適光強度が低下した。このことから、少なくともハマタニミドリガイでは、葉緑体の有無が走光性に影響する可能性がある。


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