| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-269 (Poster presentation)

危険なときには蓋をしろ:フタモンアシナガバチにおける捕食リスクに応じた巣の防衛構造の調節

*古市生,粕谷英一(九大・生態)

さまざまな動物で、子への捕食を防ぐために、防御構造を持つ巣を建造することが見られる。子の捕食される確率を減らすという機能ゆえ、防御構造はどの巣でも同様に作られていると考えられていることは多い。しかし防御構造を作ることには、巣材の採集や処理に必要な時間やエネルギー、巣内の気温といった子の成長環境への悪影響などのコストが存在する。捕食リスクが低いにも関わらず、防御構造を作ることは避けるべきである。そこで本研究では、動物は捕食リスクに応じて、巣の防御構造を作る程度を調節しているか検証した。

フタモンアシナガバチの女王は、春から初夏にかけて1頭で巣作り子育てを行う。女王は、幼虫の餌や巣材などを採集するために巣を離れる必要がある。しかし巣を留守にしていると、他巣の同種のメスに、巣にいる蛹を捕食されることがある。他巣のメスは、巣に飛来し、繭を破り、蛹を引き抜き捕食する。この時期、女王が巣材(植物の繊維と女王の唾液の混合物)を繭表面に塗り付けることが見られる。繭上の巣材は、蛹への捕食を防ぐ防御構造であり、捕食リスクに応じて量が調節されている可能性がある。

繭上の巣材の量が増加するにつれて、他巣のメスが繭を破ることにかかる時間が増加した。一方で、蛹から羽化した働きバチが、繭を破り出てくることにかかる時間も増加した。この結果は、繭上の巣材は、蛹への捕食を防ぐ機能がある一方で、新生働きバチにとって繭からの脱出の障害となるコストを伴う防御構造であることを示唆している。さらに、繭上の巣材の量は、捕食をあまり受けていない巣では少なく、捕食を多く受けた巣ほど多くなっていた。以上の結果は、女王は、晒されている捕食リスクに応じて、巣の防御構造を作る程度を調節していることを示唆している。


日本生態学会