| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-270 (Poster presentation)

協同繁殖するクリボウシオーストラリアマルハシにおける給餌同調と配偶者への信号

*野間野史明(北大・環境),Andrew F. Russell(University of Exeter)

協同繁殖は自身以外の子の世話(ヘルピング)が見られる繁殖システムである。ヘルピングを説明する要因として血縁選択が良く知られているが、繁殖個体と血縁関係にない個体のヘルピングは血縁選択だけでは説明がつかない。一方、社会的威信(social prestige)仮説は、子の世話は世話個体の配偶者としての質を示す正直な信号として機能するとしている。社会的威信仮説のもとでは、世話個体は血縁選択によって得られる利益に関わらず、将来の配偶者を得る可能性を高めるために子の世話へ投資を行うとされる。オーストラリア南東部の乾燥地帯に生息する協同繁殖鳥類、クリボウシオーストラリアマルハシにおいて、子の世話が将来の配偶者への信号として機能する可能性について調べた。本種では成鳥の性比はオスに偏っており(1.8:1.0)、オス間で配偶をめぐる競争が強いと考えられるため、繁殖オス及びヘルパーオスによる繁殖メスへの信号に着目した。32群れによる49回の繁殖を調査し、群れ構成個体の巣内雛への給餌頻度およびヘルパーと繁殖個体の血縁度を決定した。オスが巣内雛への給餌によって繁殖メスの配偶機会を上昇させているとすると、(1)給餌のための巣への飛来を繁殖メスと同調させる、(2)群れ内の競争者が多いとき信号の強調のために給餌頻度が上昇する、(3)将来の配偶可能性が高いオスヘルパーはそうでないオスヘルパーに比べ、給餌頻度が血縁選択による間接適応度に基づく予測よりも高くなる、ことが予測される。観測された個体の給餌頻度の全体的傾向は血縁選択の予測とよく合致したが、給餌行動には社会的威信の予測に部分的に整合する側面も見られた。この結果をふまえ、ヘルピングの進化における社会的威信と血縁選択の役割について考察する。


日本生態学会